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[第2回] 反中デモから学ぶセキュリティ対策

2015年7月23日

 

(2)2014年の反中デモ

デモの経緯

以下、事態の深刻さを理解して頂くため、少し長くなりますが時系列で記します。

 

5月2日
 中国の国有石油大手が西沙諸島近くの海域での石油採掘を一方的に開始。ベトナム政府はこれに抗議し、採掘の中止を中国政府に求めたが、中国側はこれを拒否。ベトナム船が石油採掘中の海域に入り抗議を行った所、中国船がベトナム船に体当たり、双方で放水の応酬を行う。

 

5月7日
 ベトナム政府が、中国船による体当たり映像を一般公開。

 

5月9日
 ベトナムの国営各紙が、艦船衝突関連のニュースを一面などで連日報道し、強い調子で中国を批判。インターネット上ではネット利用者の間で中国製品のボイコットや抗議デモの呼び掛けが広がり、国民の反中感情が高まった。

 

5月10日
 ホーチミンの中国領事館前で、数百人規模のデモが発生。極めて異例だが国営メディアがこの反中国デモを報道。現場には多くの公安警察員が配備されたものの、強制排除などはなかった。中央宣伝教育委員会が一部の国営メディアにデモ報道を認める方針を発表。

 

5月11日
 ハノイの中国大使館前で抗議デモが発生。南部のホーチミン、中部のダナン・フエでも同時にデモがあり、計4都市で数千人が参加。ハノイのデモは参加者が千人以上に膨れ上がった。反中デモでは過去最大規模。
公安当局は大使館の警備は行ったものの、デモ隊の強制排除などはしなかった。国民の反中感情を考慮して、「党指導部はデモを容認している」と言われた。

 

5月12日
 南部ビンズオン省の工業団地で12日夜に台湾系履物工場の労働者約100人のデモが発生。

 

5月13日
 13日午前中より同工場の約8千人が作業を止め、工業団地内をデモ行進。香港系電子工場の約千人、中国系縫製工場の労働者約5千人もデモを行った。午後から夜間にかけてデモ隊は膨れあがり、大規模な破壊行為、放火、略奪行為が始まった。デモ隊の多くは、中国の企業に限らず漢字の看板を掲げる企業というだけで攻撃したため、ベトナムに拠点を置く複数の台湾・香港・日本・韓国の企業が被害に遭った。日系企業の工場においてもガラスが割られるなどの被害があった。ホーチミン日本商工会によると、会員企業約700社のうち、少なくとも5社で建物のガラスが割られ、デモ隊が工場内に侵入するなどした。在ホーチミンの日本人学校は安全確保のため15日を臨時休校とした。16日時点の地元メディアなどによると、デモには約1万9千人が参加、10以上の工場が放火され、697社が被害を受け、800社あまりが操業を停止した。中国政府は、この時点までに艦船や飛行機を派遣し3千人超の中国人をベトナムから退避させ、「両国間の交流計画を部分的に中止する」と発表した。

 

5月18日
 ベトナム当局は、反中デモで多数の死者が出たことを受け、主要都市に公安警察官を多数配置し、デモを阻止。ハノイやホーチミンでは、複数のグループが抗議デモを始めようとしたが、数分以内に何人もが公安警察に拘束された。また、ベトナムの携帯ユーザーに、グエン・タン・ズン首相が治安部隊に違法行為を防ぐよう命じた旨のテキストメッセージが送られた。
 その後、7月16日に中国は南シナ海での石油採掘終了を1か月繰り上げて終了したと発表。石油採掘船の引き揚げが確認されたことで、5月初頭から続いた西沙諸島における中国とベトナムのにらみあいは、ここで一段落した。

 
 

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<左>襲撃された中国・台湾系と思われる企業がベトナム国旗を掲示している
<右>焼き討ちにあった工場

 
 

デモ隊の行動について

今回のデモでは次のような特徴的な行動が見られました。

 

・デモ隊がベトナム人工場ワーカーに対してデモに加わるように要請し、ワーカーが拒否すると「火をつける」「生産活動を停止させる」 などと脅した。そのため無理やりデモに参加させられた日系企業のワーカーもいた。
・バイクに乗った数名が各企業の稼働状況を偵察して回り、デモ隊と連絡しあって突入するかどうかを検討していた。
・社名の看板等が漢字の為、中国系企業と勘違いされ、台湾・香港系の工場が攻撃を受けた。
・工場敷地内に強引に侵入し、デモ行動に必要なベトナム国旗を工場から奪い取った。
・屋外に駐車してあった車両、バイクに火をつけた。
・騒ぎに便乗し、侵入した工場から完成品や材料を窃盗した。

 

想定されたリスク

このような状況の中で、工業団地に入居している日系企業に対して次のようなリスクが想定されました。

 

・通勤途上や勤務中のワーカー・スタッフ・日本人がデモに巻き込まれ負傷する。
・騒動に便乗して日頃の不満(低賃金など)を解消するため破壊行為などを行う。
・デモ隊が工場を取り囲み、避難が困難な状況となる。
・日本人幹部が不用意な発言をし、従業員から反感を買う。
・近隣の火災が燃え移る。
・デモが長期化し、稼働調整や休業等により、生産計画に影響を生じる。

 

工業団地および入居企業へのアドバイス

今後もこのようなデモが再発する可能性は否定できないため、工業団地および入居企業においては以下のような準備・対策を行うべきと考えます。

 

1)関係機関・工業団地・入居企業間の情報収集手段の確保、連絡体制の準備

 情報の収集、連絡体制の構築が最も大切です。万が一、デモ等が発生した際の最新で正確な情報の入手先確保や各関係機関・地元公安・工業団地の管理会社や警備会社との連絡体制を構築する必要があります。

 

2)定期的な緊急連絡網の確認訓練

 担当者の入れ替わり等も考慮し、半年に一回程度、緊急連絡網の抜き打ち訓練を実施し、結果を確認することが大切です。最初の連絡者から、最後の連絡者が本部へ一報するまでどれくらい時間を要するのかを確認します。

 

3)工業団地警備体制の検討と警備員に対する事前教育

 工業団地ゲート封鎖の方法や位置の検討と、警備員に対する事前教育が必要です。具体的には、デモが発生した場合における対応方法のルール化や、日本国旗を掲示出来るように警備室に事前に保管しておく必要があります。

 

4)緊急避難のマニュアル化と訓練

 工業団地からアクセスする道路が、デモ隊などにより封鎖された場合を想定した迂回ルートを検討します。また、どの従業員から帰宅させるか帰宅ルートをどうするかなどのマニュアル化も必要です。さらに有事を想定した訓練を実施することにより、見えていない問題点・課題点が見えて来ます。

 

5)社員教育

 デモには近づかない、面白がらない、参加しない。 不審物3原則(触れない、嗅がない、動かさない)の応用。

 

以上、次回は、日常的に工業団地内で発生する事件について説明します。

 

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安立 光孝

プロフィール

ALSOK (Vietnam) Co.,LTD.
代表取締役社長
安立 光孝

コンピュータメーカーで17年間システムエンジニアとして従事。製造業における生産管理システムやファクトリオートメーションシステムの構築を担当。1998年から4年間、米国シリコンバレーに駐在し、ITセキュリティのベンチャー企業を発掘、日本市場への参入を支援。2007年に綜合警備保障株式会社(ALSOK)入社。新規事業の「情報警備」事業を立ち上げ、2014年4月より現職。

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