ベトナムのマクロ経済と金融市場
統計数字について
ベトナムにおける経済統計は、ベトナム統計総局(GSO)やベトナム国家銀行(SBV)の発表統計、さらには世界銀行・IMFやアジア開発銀行の発表に頼るところが大きい。しかしながら公式統計で捕捉している数字は、ベトナム国営企業群(一部民営化された企業を含む)、ベトナムの証券取引所に上場されている企業群、認可を得た外資系企業群が中心であり、市中の小規模な民間企業や個人企業の経済活動が十分捕捉されているとは言い難い。ベトナムの経済規模は公的機関が捕捉して発表している数値よりも実際には更に大きい。特に都市部においてはその乖離が顕著であることを念頭に置く必要がある。また、農村部で見られる食料の自給自足活動も統計に反映されないため、一人当たりのGDPが小さいわりには生活水準はそれほど低くない印象を受けるかもしれない。マクロ経済GDP成長率ベトナム経済の成長を牽引してきたのが、1990年代半ばから本格化した外国企業の受け入れと都市部の民間企業の成長であったことは言うまでもない。1997年にアジア通貨危機があったものの、1995年以降一貫して、外国からの直接投資が農水産加工業・軽工業の成長を牽引し続けた。1995年のアセアン加盟とアメリカとの国交正常化の前後が第一次投資ブーム、2007年のWTO加盟前後が第2次投資ブームと呼ばれる。農水産加工品や軽工業製品の輸出産業、輸出加工型産業の生産拡大と雇用促進によって、一人当たりGDPはこの10年間で約3倍となった。
対外収支
2001年以降の10年間を見ると、貿易収支・経常収支は赤字で推移する一方で、海外からの直接投資+ODA中長期ローン借り入れ+間接証券投資などの合計:資本収支が大きく黒字で推移し、ネット相殺した総合収支では黒字を継続している。
さらに統計には反映されないが、越僑(1975年の南北統一後、海外に出て海外国籍を取ったベトナム人)からの郷里送金、2000年以降増えた海外出稼ぎ者からの仕送り金のうち、銀行送金以外の方法(現金持込など)で流入している金額が大きい。結果として市中に外貨が流通・貯蓄されており、公的部門の外貨準備高統計と実態が一致しない現象を生んでいる。
物価上昇率
ベトナムの物価上昇率は為替レートの変動率(対米ドルのベトナムドン減価率)との連動性が高い。ベトナムドンが米ドルに対して約5%減価すれば、物価も約5%上昇するという傾向が続いていたが、2008年と2011年(予想値)はそれを上回る年率約20%もの上昇となった。これは、2007年と2010年の国内消費の盛り上がりとリーマンショック後の国際商品市況上昇(特に食糧価格)が新たな物価上昇要因として加わったと見ることができる。